第5回 『防災安全とネモト〜(3)床上避難誘導標識』 (2000/03/28)
根本特殊化学株式会社 相談役 村山義彦
ネモトが時計業界のために1993年に開発したN夜光・ルミノーバ(コラム#01参照)は、いま新たに世界の航空業界にも貢献し始めている。
「GO!! GO!!」 真暗闇のキャビンに緊急避難を指示する声が響く。すばやく席を立ち手探りで通路に出る。煙を避けて身体を低くすると、暗い中に光りのラインが目に入る。これが通路の「避難誘導表示」だ。すぐに、その光りのラインに沿って前に進む。迷うことなく非常脱出口にたどり着く。こうして、初めて飛行機を経験する2名を含めて、19才から51才の計19名の人達が、次々と無事脱出することに成功した。
これは、CAMI(民用航空医学研究所)が、FAA(米国航空管理局)の管理規制担当官と、イギリス、フランス、ドイツの担当官の参加のもとに、「航空機用蓄光床上避難誘導システム」の性能評価のための実機テストを行った場面を想像したものである。
実験には、蓄光材料(従来型とN夜光[G-300M])を、1インチ幅のストリップ状に加工したものを設置し、これを夜間飛行中の機内照明レベルの25ルクスの明るさで、30分励起した後停電し、150分経過してから避難行動をとるというシナリオで行われた。
この実験の結果をまとめたFAAレポート(Feb,1998)
によると、従来型蓄光材料を用いたものは輝度不足で不適当であったが、
N夜光を用いたものは、被験者全員が有効であったと評価しており、 航空機用床上避難誘導システムにはN夜光を利用することが良いことを結論としている。
表. 蓄光床上避難誘導標識の発光輝度(mcd/m2) -FAAレポートより
| 蓄光材料の種類 |
経過時間 (分) |
| 0 |
30 |
60 |
90 |
120 |
150 |
| N夜光 (G-300M) |
13.7 |
3.8 |
3.0 |
2.7 |
2.5 |
2.4 |
| 従来夜光 (ZnS) |
14.7 |
1.6 |
1.1 |
0.9 |
0.8 |
0.7 |
励起条件 : 白熱灯 25ルクス, 30分
測定条件 : 測定角33°,距離 206cm |
旅客機には、連邦規則 14 CFR 25.812*1によって、床上避難誘導システムを備えることが義務付けられている。これまでは、キャビン通路に沿った床上に白熱発光タイプの豆電球などが設置されており、非常時点灯するようになっている。このシステムはバッテリーや配線の不具合、電球切れ、振動、乗客やサービスカートによる踏みつけなどによる故障で点灯しない場合が度々生じ、その都度点検、修理に多くの労力と費用を要するという、厄介な問題があった。
このような問題を解決するためには、電気配線を必要としない蓄光性誘導標識を採用することが考えられたが、これまでの蓄光材料では発光輝度や発光時間が十分でなく、目的にかなうようなものが無かったのである。しかし、従来のものより発光輝度も残光時間も10倍という高性能な、ネモトのN夜光の出現によって、一気に問題解決に至ったというわけである。
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写真. 旅客機キャビンのN夜光床上避難誘導システム実施例
(ルフトハンザドイツ航空 提供) |
同様の実験は、ヨーロッパでもエアバス(A-340-300)を使って行われ、N夜光を用いたものが有効という結果が得られた。そして、ルフトハンザ
ドイツ航空がまずその実用に先鞭をつけ、1997年にはヨーロッパ内中距離飛行の旅客機にN夜光床上避難誘導システムを採用し、運行を始めている。
いま、世界の空を飛ぶ旅客機はおよそ1万機もあると言われているが、そのうちの約1,000機にはすでにN夜光システムが設置済みであると報じられている。N夜光も改良が進み、最近、白熱電灯による低照度の励起でも、より発光輝度の高いものが開発されているので、長距離飛行の航空機にも採用されることも間近いと思われる。そうなると、世界を駆け巡るすべての旅客機がN夜光システムを装備して、乗客とその安全を乗せて運行することになり、N夜光の価値が一段と高まることは、嬉しい限りである。でも、実際にN夜光システムが役立つような事態が起こることのないよう、願っている。
表. N夜光の標準タイプと低照度タイプの輝度比
| N夜光種類 |
経過時間 (分) |
| 5 |
10 |
20 |
30 |
60 |
| 標準品 G-300M |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
| 低照度品 GL-300M |
209 |
198 |
181 |
173 |
150 |
| 極低照度品 GLL-300M |
241 |
221 |
181 |
161 |
125 |
| 励起条件 : 白熱灯 10.8ルクス, 60分 |
注釈)
*1 連邦規則 14 CFR 25.812
※ 14 CFR 25.812(a)(1)
旅客機は主電源システムから独立した床上避難誘導標識を含む非常灯システムを備えなければならない。
※ 14 CFR 25.812(e)
床上避難誘導標識は、床上4フィートより上部の照明が煙によって不鮮明になった場合でも、 乗客に非常脱出ルートを示すものでなければならない。
また、床上避難誘導標識は夜間の暗がりの中でも、乗客が客室内の通路に沿って非常脱出ルートを視覚的に認識でき、 かつ、床上4フィート以下の部分で通路と非常口を視覚的に識別できなければならない。
Copyright 1999 by Nemoto & Co.,Ltd , Yoshihiko Murayama