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第6回 『防災安全とネモト〜(4)蓄光誘導標識』 (2000/05/31)

根本特殊化学株式会社 相談役 村山義彦

 去る2000年3月8日、東京の地下鉄で起こった脱線・衝突事故の悲惨さは、まだ記憶に新しいところである。そして、死者6名、負傷者60名という犠牲者を出したことが報じられたが、もしこの事故が地上でなく地下トンネル内で発生していたら、もっと大惨事になっていたに違いない。 それは、暗闇での乗客の避難が、方向もわからずパニック状態になったと想像されるからである。そんな場面で、もしそこに暗闇に光る蓄光誘導標識があって、避難する近い駅の方向と距離が示されていたら、安全避難に大いに役立つものと考えられる。

営団地下鉄標識

 最近、東京の営団地下鉄では、近々に開通する南北線の溜池山王・目黒間のトンネル内に、写真に示すような方向と距離を明示した、30cm×60cmの大きさの蓄光誘導標識板を設置した。この標識は、特別な照射装置をつけなくとも、絶え間なく往来する電車の車窓から洩れる光で励起されて、暗闇で発光するという優れた特性をもつものなのである。
 試験的に設置されたこの標識だが、試験結果が良好のため、同じく南北線の北側に接続される、現在工事中の埼玉高速鉄道線(赤羽岩淵・浦和美園間)にも、採用される予定である。

 こうした暗所で光る蓄光誘導標識は、地下鉄ばかりでなく、都市に多い地下街や地下道、またビルの地下室などで、災害の発生により緊急に避難する際に、暗中で避難通路や避難口を明示する大事な標識となるもので、消防法でもその設置を義務付けているものである。

 昨年10月に新消防法が施行されたが、消防庁は1999年9月21日付の通達で、「誘導灯及び誘導標識に係る設置・維持ガイドライン」を示した。その中で、

「蓄光性(光を照射された物質が、照射を止めた後において発光する性状をいう)を有する材料で造られた誘導灯及び誘導標識について、暗所において視認性の確保に有効なものであることから、適宜活用を図られたい。この場合において、その蓄光性については、JIS Z 9100(蓄光安全標識板)、JIS Z 9115(自発光安全標識板)等により担保すること。」

と明記している。

 この蓄光安全標識板のJIS規格については、ネモトが開発したN夜光を利用することで、標識板の性能を大きく向上することが可能となったことから、規格の改定が行われ、1998年10月20日に、新たにJIS Z 9107(安全標識板)として制定されている。

JIS Z 9107-1998より 参考図1 標識の種類 c)蓄光安全標識板意匠例(抜粋)

  意匠例
  明所(通常) 暗所(停電時)
避難口誘導標識
(壁面掲示型)
sign1-light sign1-dark
通路誘導標識
(壁面掲示型)
sign2-light sign2-dark
避難口誘導標識
(床面掲示型)
sign3-light sign3-dark
通路誘導標識
(床面掲示型)
sign4-light sign4-dark

表. 蓄光誘導標識板のりん光輝度の新旧JIS対比

JIS No. りん光輝度 (mcd/m2)
5分後 10分後 20分後 60分後
旧(JIS Z 9100) 20以上 8以上 3以上 ---
新(JIS Z 9107) 110以上 50以上 24以上 7以上

 新JISと旧JISの蓄光性能の差は表に示すとおりで、約5〜6倍も高い基準が設定されている。したがって、N夜光を用いた蓄光誘導標識でなければ消防法の基準に合格できないこととなったのである。

欧州安全標識例
写真.ヨーロッパで採用されている蓄光安全標識の例

 国際的には、ISO(国際標準化機構)において、ISO/FDIS 15370*1(客船における避難誘導システム)の規定では、N夜光を採用することで、従来は75mmの巾が必要であった蓄光ラインが、25mm巾まで縮小することができるとしている。 また、ISO/CD 17398*2(安全標識板)でも、規格の検討を進める中で、日本のJIS規格が検討原案として取り上げられ、作業が進められている、

 防災安全のための安全標識等に蓄光材料を利用することは、世界でもヨーロッパ各国が一番進んでいる。そして、それに利用される蓄光材料はこれまで年間100トン程度であったが、ヨーロッパの標識業界では、いち早く従来の蓄光材料より性能の高いN夜光に切り替える作業を始めている。このように、世界で防災安全の分野でも、N夜光が大いに貢献することとなったのは、喜ばしい限りである。



ハロゲン電球スペクトル
図. ハロゲン電球の発光スペクトル

 高速道路などのトンネル内にも、蓄光誘導標識は必要ないだろうか。正常時にはトンネル内は照明があり、問題はないが、事故時照明が消えた暗闇では、視認できる蓄光性の避難誘導標識がなくてはならないと考える。この場合、自動車のヘッドライトの光で効率よく励起される蓄光材料があれば、大変都合がよい。

 しかし、ヘッドライトには通常ハロゲン電球が使用されていて、その光には図に見られるようにN夜光を励起する有効な紫外線部の光を含んでいないので、具合が悪く問題があった。

 ネモトはこうした問題を解決するため研究を進め、ハロゲン電球の光にもよく発光する新しいN夜光の開発に成功した。その蓄光特性を従来のN夜光と対比すると、表の通りとなる。


表. ハロゲンランプ用N夜光 残光輝度対比

1分後 5分後 10分後 20分後 30分後
N夜光 (G-300M) 100 100 100 100 100
N夜光 (ハロゲンランプ用) 336 235 214 180 180
励起条件 : 600ルクス(ヘッドライト用ハロゲンランプ55w,2灯,距離5m)
励起時間 : 30秒

 このように、自動車のヘッドライトの光で蓄光性能の高い蓄光材料が開発されたことによって、トンネル内ばかりではく、電灯のない山路などで自動車の通る道路の災害防止のための安全標識にも活用が可能となった。



注釈)
*1 ISO/FDIS 15370 Ships and marine technology -- Low-location lighting on passenger ships -- Arrangement (Ed.1)
*2 ISO/CD 17398 Durability of safety signs -- Requirements, classification and test conditions

Copyright 1999 by Nemoto & Co.,Ltd , Yoshihiko Murayama