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第8回 『防災安全とネモト〜(6)自動車トランク非常脱出レバー』 (2000/10/27)

根本特殊化学株式会社 相談役 村山義彦

 1998年の夏、アメリカでは思いもかけない悲報が相次いで伝えられた。それは、7月〜8月のわずか3週間の間に、11人もの幼い命が自動車のトランクに閉じ込められたまま、失われたということである。死因はいずれも、熱射病と窒息であると報じられた。

 この悲惨な事態を重視した 連邦ハイウェイ交通安全管理局(National Highway Traffic Safety Administration)は、早速に専門家会議を招集してその対策の検討を始めた。そして、1999年1月から5月までの3回の討議を経て、勧告案をまとめ、2001年1月よりの実施を目指して法制化の作業を進めた。そしてそれは、Federal Motor Vehicle Safety Standards(FMVSS) に Standard No.401として追加され、 2000年10月20日に発行された *1

 この規制に明記された要求事項は、

  • トランクのあるすべての乗用車には、トランクの内部に、自動式または手動式のトランクを開ける機構を装備しなければならない。
  • 手動式の場合は、閉じ込められたトランクの中で容易に装置を見つけられるように、ライトかまたは蓄光発光性のものを用いなければならない。
  • 自動式の場合は、人がトランクに閉じ込められてから5分以内にトランクが開く機構としなければならない。
  • すべてのトランク解放装備は、他の規定による要求に関わらず、どんなトランク掛け金状態からも、完全にトランクを解放するよう作動しなければならない。

と、している。こうして、アメリカにおいて2001年9月1日より販売される新車には、この規制が適用され、何らかの非常脱出用の装置を取り付けることが義務付けられたのである。

  アメリカの自動車メーカーはそれぞれ、その対応のために精力的に研究開発を進めた。フォード(Ford Motor Company)のMr. M.Stando は、1.5才から4才位の子供にとって、物をつかんで引っ張るという行為は、誰でもやる自然な行動であるという心理学者のアドバイスから、子供の手のサイズに合わせた、「T字型ハンドル」を考え、それを引っ張る操作でトランクが開く機構を開発した。ハンドル部分には、ガレージの照明の10秒間の励起で、蓄光発光する長残光性蓄光顔料をポリプロピレン樹脂に入れて成型したものを用いた。これを使用して、3才から5才の子供27人に試したところ、18人が成功したことを報告している。

  また、GM(General Motors Corp.)の、Dr. C.Wood の レポート *2によると、GMの開発チームでは3才から5才までのいろいろな性格の子供たち100人を動員して実験を繰り返した。最初に考えた照明装置には、子供たちは手を触れようとせず失敗した。それは、「照明は熱いから触ってはいけないよ」と日頃親から躾られているためだった。次に、照明スイッチを試作し、子供たちが出口を探して明かりを欲しがってスイッチを押すように仕組んだが、これも見事に失敗した。子供たちはスイッチを見つけたけれど、それで明かりをつけて出口を探すと考えたのは大人の勝手な考えだとわかった。研究員は、おもちゃ屋に出かけて子供たちが興味を持つようなノブやハンドルの形や色を探った。そして、9種の装置をテストし、最終的に最も良かったのは、子供の弱い力でも操作できる、かなり普通のレバータイプのハンドルであった。子供たちはハンドルが何をするものか知っており、しっかり握って廻してトランクを開けたのである。

  日本においても、2001年9月からアメリカに輸出販売する自動車には、こうした規制が適用されることから、国内の自動車メーカー各社は、一斉に具体的な対応のための開発を進めた。そして、いろいろと検討した結果、各社とも蓄光発光性の長残光性蓄光顔料「N夜光」を利用することを採用し、量産に入っている。

trunklever_light trunklever_dark
写真.蓄光性トランク非常脱出用レバー


 今ここに、一つの具体例を紹介する。 トヨタ自動車株式会社が採用した自動車トランクからの非常脱出用の蓄光性トランクレバーを写真に示した。 これは、プラスチックにN夜光を混合して成型したもので、その残光特性は、表に示す通りである。 ガレージ内の比較的低い照明の場を想定して、常温で70ルクスの光で30秒照射したときと、 日中屋外で日光に曝されて高温になった場合を想定して、80℃で1,000ルクスの光で30秒照射し、80℃に置いたときの残光輝度を測定した値である。 80℃では、当然残光輝度の減衰は速くなり、その 輝度減衰係数 *3は、 常温時の1.1が、80℃では1.6と大きくなるが、0.3mcd/m 2になる時間は、 いずれも2時間以上あり、充分な効果を示すものと考えられる。


表. 蓄光性トランクレバーの残光特性

励起条件
常用光源D 65
残光輝度 (mcd/m 2)
10min 20min 30min 40min 50min 60min
70lx, 30sec
23±2°C
8.0 3.9 2.5 1.8 1.4 1.1
1000lx, 30sec
23±2°C
64.4 27.7 16.5 11.2 8.4 6.4
1000lx, 30sec
80±2°C
24.5 8.4 4.1 2.7 1.7 1.3
(注) 測定温度は励起温度と同じ

 ネモトのN夜光ルミノーバが、こうした防災安全の面で使われることは、大いに歓迎するところであるが、 それが本当に役立つような事態が起こらないことを願っている。 しかし、万一の場合、N夜光の光が、大切な子供の命を救うことになったとしたら、 こんな大きな喜びはないだろう。



注釈)
*1 Federal Register Vol.65,No.204, Oct.20,2000
*2 GM Trunk Entrapment Press Conference, Dec.16,1998
*3 輝度減衰係数:輝度減衰式 I = I 0t -nにおける、nの値をいう。このとき、t:時間、I 0:初期輝度、I:t時間経過後の輝度

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