根本特殊化学株式会社 相談役 村山義彦

セイコー時計

[1933年製セイコー夜光時計]

ネモトは、夜光塗料の加工を業として1941年12月に創業し、夜光時計にかかわって58年の歴史を持つ会社である。
時計の歴史は大変古いが、夜光時計となるとそれほど古いことではなく、20 世紀に入ってラジウム夜光塗料が生まれてからで、1908年アメリカで、スイスでは1911年に生産され始めている。日本では、1895年に時計の生産を始めたというセイコーでも、1927年に夜光腕時計を、夜光目覚時計は1931年に初めてPRしているので、世界に20年も遅れていることになる。

牛の出現に驚く太宗皇帝

[牛の出現に驚く太宗皇帝]

ところで、夜光塗料の元祖は何と1000年も昔の日本人だと言うことをご存じであろうか。 台北の故宮博物院に所蔵されている文書によると、宋の太宗皇帝(976~998)が見た「昼は見えず夜のみ現れる不思議な牛の絵」についての質問に、「この絵は日本人が海の貝から作った特殊な絵具で書いたもの」と家臣が答えた話が記録されている。 この不思議な現象は、今日では、昼の光を蓄積し、暗所で発光する夜光塗料の仕業と簡単に説明できる。

夜光時計に用いる夜光塗料は一晩中発光を持続しなければならないため、ラジウムを加えてその放射線を利用することが考えられて使用されてきたが、1960年、ネモトがラジウム夜光塗料に代わるN発光(プロメチウム夜光塗料)を開発したことから、夜光時計は大きく飛躍することとなる。 それはN発光がラジウム夜光塗料より高輝度で、しかも安価で、その上放射線安全性が桁違いに高いことから、これを採用した日本の時計メーカーは夜光時計を大量に世界マーケットに売り出し、日本時計産業の発展に大いに役立たせたのである。 最盛期(1984)には夜光腕時計1000万個/年、夜光目覚時計1200万個/年の生産が記録されている。

N夜光腕時計

[放射能を含まないため、全面塗布が可能となったN夜光腕時計]

しかし、時代は環境重視の世の中に移り代わり、僅かながら放射能を含む夜光時計は敬遠され始め次第に生産が減少した。廃棄されると環境に放射能をばらまくことになるという理由である。 こうした夜光時計の危機を救ったのは、またもやネモトのN夜光の発明(1993)である。 放射性物質を加えなくとも、一度蓄光すると一晩中発光を続け、夜光時計の機能を充分持つという優れものである。 今度は、世界中の時計メーカーがこれに飛びつき、夜光時計は見事に変身し蘇ったのである。

夜光塗料の元祖は1000年も昔の日本人であった。そして10世紀を経ていま、世界に先駆けて画期的な夜光塗料が日本から生まれ、西暦2000年を迎える。まことに痛快なことではないか。

Copyright 1999 by Nemoto & Co.,Ltd , Yoshihiko Murayama