根本特殊化学株式会社 相談役 村山義彦

蛍光灯

蛍光灯は、今やどの家庭でも何の不便もなく使われている。そこには、ネモトの技術の隠れた貢献があるからなのである。

夜の太陽「不尽輝蛍光燈」

[夜の太陽「不尽輝蛍光燈」]

蛍光灯は、日本では1940年に東芝がアメリカのGEの技術を導入して造り始めたとされているが、当時すでに日本の独自技術で蛍光灯が造られ始めていたことを知る人は少ない。それは、日本の夜光塗料の元祖の藤木顕文が「日本冷光電気株式会社」を設立し、技術者 大森松夫の協力を得て蛍光体を開発して蛍光灯をつくり、「不尽輝(ふじき)蛍光灯」と名をつけて発売していたのである。そして、東芝と並んで商工省の製造許可を得て軍需に供していた。 因みに、1941年の年間生産計画は軍需24万本、民需6万本であった。

グロースタータ

[グロースタータ]

蛍光灯は白熱電灯に比べて著しくエネルギー効率が高く、電力事情の悪かった戦後復興期に急速に普及した。  しかし、当時の蛍光灯はスイッチを入れてもすぐに点灯せず、しばらくヤキモキして待たねばならなかった。そこで、反応が遅く感度の鈍い人を「あいつは蛍光灯みたいな奴」と揶揄することによく使われていた。
これは蛍光灯の点灯管(グロースタータ)のグロー放電が、暗所ではなかなか起こらないことによるもので、放電の引き金となる外部からのフォトン(光子)や宇宙線の入射が必要で、それが全く不規則であるがためであった。

この点灯管の暗所放電特性を改善するためには、外からの刺激を待つのではなく、管内部に励起源を入れておけば解決できることから、当初は点灯管のステムの一部に放射性夜光塗料を塗布することで目的を果たすことができた。
しかし、一個一個塗布することは自動生産ラインに組み込むことが難しく、また、塗布作業現場で放射能汚染を生ずるという二次的問題を発生してしまった。

RI電極断面

ネモトは、科学技術庁の要請もあり、この問題解決のための開発に取り組むこととした。
そして、点灯管の電極の一部に放射能(63Niまたは147Pm)をめっきし、更にその上にニッケルをめっきして密封線源の品質基準をクリヤーするものの開発に成功し、1974年の照明学会に発表した。
この成果は直ちに東芝をはじめ大手の点灯管メーカに採用されることになり、一気に量産に移った。ネモトは独自に連続自動放射能めっき装置を開発して量産に対応した(1975年)。
こうしてスイッチを入れればすぐ点灯する蛍光灯が出現したのである。

RI密封電極

このRI*1密封電極は、右の写真に示すようにいろいろあり、点灯管以外にネオングローランプ、水銀ランプなどの放電灯やアレスタなどに利用されて、それらの特性向上に役立ち、各種電子機器に採用されている。
用いられる放射能レベルは、63Niが2kBq(キロベクレル)*2、147Pmが10kBq程度で、いずれもβ線放射核種なので、ガラス管で放射線は遮断され、放射線安全性は確保されている。

点灯管用のRI電極の生産は1977年には1億本/年の大台にのぼり、今日まで続いている。ほかの利用分を含めると、一時期レンズ付きフィルム(フラッシュ付)に利用されたこともあって、最高3億本/年も生産したこともあった。
こうして、日本だけでなく世界のいろいろなところで人々のお役に立ったネモトのRI電極の生産累計は1998年末までにおよそ、点灯管用が 28億本、その他も含めると47億本の多くにのぼっている。

注釈)

  1. RI : RadioIsotopeの略で、放射性同位元素の意。放射能(=放射線を出す能力)とは厳密には異なるが、同義として用いられることが多い。
  2. Bq : 放射能の単位。1Bqは、1秒間に1壊変して放射線を放出する能力をさす。1壊変ごとに出る放射線の数や種類、エネルギーは放射性核種によって異なる。
    k(キロ)は補助単位で、千倍の意。

Copyright 1999 by Nemoto & Co.,Ltd , Yoshihiko Murayama